訪れる子どもたちへ。山の中の小さな宿・カフェ店主が思うこと。

執筆者
小野正晴
小野正晴
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私は今、ここ下北山村で小さな宿とカフェを妻と一緒に営んでいる。

 

山の中の小さな宿・カフェ店主というのは、なかなかにやりがいのあるステキな仕事だ。お客さんに楽しい時間を過ごしてもらえたという手ごたえを感じた時や、多様な人がこの場に集まり、良い雰囲気が生まれている瞬間に居合わせた時、「この場を作ってよかった」と何とも言えぬ満足感に浸ることができる。

 

うちの宿には、口コミや紹介を頼りに、都市部から親子連れのお客さんが泊まりに来てくれることも多い。最近特におもしろいなぁと感じるのは、この場を訪れてくれる子どもたちとの関わりである。

 

 

うちの宿とカフェがあるフィールドに来ると、最初は慣れぬ環境に少し緊張気味な子どもたちも、大抵すぐに思いっきり走り回り、活き活きとした笑顔を見せてくれるようになる。

 

子どもたちにとっては、この場で初めての経験をすることも多いようだ。と言っても今のところ、体験のためのメニューを特別に用意することはしていない。ただ私たちが普段の生活の中で当たり前にやっていることに、子どもたちの方が興味を持って近づいてきてくれることがほとんどだ。

 

そうして、ありのままの暮らしのワンシーンを共にするということは、新鮮な驚きや感動を伴って、子どもたちの心の中に残る体験になり得るのではないかと感じている。

 

フィールド内で子どもが喜んでくれる場所のひとつが、カフェ棟のすぐ横の池である。仲間に手伝ってもらいながら、自分たちで作ったものだ。

 

カフェのキッチン排水が軽石を敷き詰めた水路の中を通っていく。そこで排水は微生物と植物の力で浄化され、きれいになった水がこの池に溜まっていく仕組みになっている。「バイオジオフィルター」と呼ばれるシステムだ。

 

 

池の中には放した金魚が泳ぎ、カエルやイモリ、ヘビやトンボなど、水辺の生き物が自然と集まってきている。その生き物たちが元気でいるかどうかが、キッチン排水が正常に浄化されているかどうかのバロメーターとなる。

 

子どもたちは、そんな仕組みをどこまで理解してくれているのかわからないが、水面の水草を木の枝でかき分けながら、生き物たちの様子を楽しそうに観察している。

 

ある時、池で遊んでいた男の子が突然私に駆け寄り、「あのね、僕この池気に入った!」とわざわざ伝えに来てくれた。その言葉を聞いただけで、私はこの池を作った甲斐があったと思った。

 

 

卵と肉と鶏糞をいただくために飼っているニワトリも子どもたちに大人気だ。カフェや宿から出た野菜くずや食物残さは、すべてニワトリたちのエサになる。このエサやりを子どもたちが一緒にやりたがることも多い。

 

私は「生ゴミって言うけど、ホントは全然ゴミじゃないんだよねー」なんて、さらっと言いながら、一緒にエサをやり、産卵箱の中に卵が産まれているかどうか見てみる。東京から来た女の子は、産卵箱から出てきた卵を不思議そうにじっと見つめていた。

 

有精卵なので、「温めたらヒヨコが産まれるかもね~。」と話すと、さらに不思議そうな顔で「どうして卵がヒヨコになるの?」と聞いてくれた。私は「何でだろうね? 不思議だよね」と答えた。本当に自然は不思議だ。私には簡単に答えられないことばかりだ。

 

 

カフェの営業日に泊まれた子はラッキーだ。なにせ、このカフェは営業日が多くはない。それがピザランチの日であれば、いつもは宿のお兄さんである私は石窯の前に立ち、ピザ焼き職人のお兄さんに変身するのだ。

 

 

間伐材や剪定木を薪にしたものを、手作りの石窯に投入し、火力を調節しながら、ピザを焼いていく。その様子を見て、ある女の子は、「魔女の宅急便みたい!」と言って喜んでくれた。ジブリ作品の大ファンである私は、心の中でひとりガッツポーズをした。

 

 

このフィールド自体は、特に子どもを意識して作ってきたわけではない。基本的には、自分たちが心地良く過ごせる場を作ろうと工夫してきただけだ。だがそれが意外にも、子どもの感性を刺激したりする。それがおもしろいし、なんだかうれしい。ゲーム機を置いて活き活きとはしゃぎ回って遊ぶ姿は、無邪気な子どもそのまんまじゃないか。

 

私がやっていることを真似して真剣に物事に取り組む様子を見ると、子どもは可能性の塊でしかないと思う。子どもたちの反応に嘘はない。ありのままの言動、満面の笑顔に溢れる好奇心、素直な心から流れる涙。子どもたちのひとつひとつの反応が、この場を作る私たちにひとつの答えを示してくれている。

 

そして何より、ここには自然がある。清らかな川が流れ、メガサイズのカエルやムカデがいる。満天の星空が見え、静けさの中で火を焚ける。ここで暮らす私たちの日常が、訪れる子どもたちにとって、たった数日間を過ごすだけの非日常であることが少し残念だ。

 

 

私は、大人のお客さんにカフェのセルフビルドやフィールド作りの話をするときは、謙虚な話しぶりを忘れないよう心掛けているが、子どもたちに話す時には、「これ俺が全部作ったんだぜえぇ~!」と、ドヤ顔全開で話したりしている。

 

君たちは、そのままでいいんだよ。何でもできるし、好きなように生きればいいんだよ。

 

そのメッセージを伝えたいという私の意識の表れである。薄っぺらな言葉としてではなく、この場を通して、何かしらの熱を感じてもらいたいのだと思う。今はただ、ここで過ごす時間を思いきり楽しんでくれたらそれでいい。だけど、今よりも少し大きくなって、もしここでの体験を思い出すことがあれば、どうか考えを巡らせてみてほしい。

 

なぜここには、池があり、ニワトリがいたのか。なぜあの夫婦は自分でカフェを建て、薪で調理をしていたのか。そんなことが気になったら、またいつでもここを訪れてほしいと願う。

 

 

昨年秋のカフェオープンから数か月後、私たち夫婦の間にも第一子が誕生した。

 

今は、夫婦ともに一日中子どものそばにいられる生活である。子どもの首が座り始めたころから、無理のない頻度でカフェの営業を再開した。そして、営業日には客席のど真ん中に赤ちゃん布団を敷き、子どもと共に営業している。

 

 

お客さんに子守りをお願いしたり、授乳を挟んだりしながらの営業は、どこででもできることではないな、と周りの温かさに感謝する日々だ。わが子には、私たち夫婦の暮らしぶり、仕事ぶりを隣で見ながら、のびのびと育っていってほしいと思う。

 

この子も私たちがそうであったように、いつかは旅に出て、自分の好きな場所を見つけて、自由に暮らしを作っていくのだろう。どこで暮らすにしても、たくましく生きていけるだけの力を身に着けてほしいと願っている。

 

生後まだ数か月のわが子であるが、私たちの姿をすでに冷静なまなざしで見つめているような気がする。

 

新たに娘も加わったこれからの暮らし作りも、楽しみだ。

 

Ono Masaharu
小野正晴

神奈川県鎌倉市出身。早稲田大学社会科学部卒。「オノ暮らし」主宰。パーマカルチャーデザイナー。出版社勤務後、3年間の世界一周ハネムーンを経て、2017年より下北山村で暮らし、小さな宿・カフェを開業。

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