セルフビルドで仕事づくり ~素人夫婦のひとつの挑戦~

執筆者
小野正晴
小野正晴
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私が妻と一緒にこの村に暮らし始めてから今年で5年目になり、生活や仕事の地盤も少しずつ固まってきつつある。

 

頭の中の妄想では、さらに先の計画までイメージがある。しかし、想いを形にしていく過程は、いつだってゆっくりにしか進めない。もどかしいけれど、ビジョンに向かって着実に一歩ずつ前進していく、そんな地道な日々を楽しんでいる。

 

村に来てから、個人事業主として開業したり、家族が増えたり、空き家を購入して引越したり、と人生において比較的大きな変化を経験した。最近は、村に来たばかりの頃には見えていなかった景色が見えてきて、村暮らしも次の段階に入った感覚がある。

 

ここでは、これまでの経験を振り返りつつ、私が大切にしていきたいと思っていることを改めて文章にしてみようと思う。

 

 

私たち夫婦が下北山村で暮らしの拠点づくりを始めてから、まず力を入れてやってきたことのひとつが仕事づくりであった。そして今は、小さな宿とカフェという二つの軸を、仕事としてなんとか形にすることができた。

 

 

今後は、これら自営の仕事をベースとして大切に育てながらも、地域内外で必要とされる仕事に関わり、求められる役割を担っていきたいと思っている。自営の仕事と外で求められる仕事をバランスよく組み合わせていく生活スタイルが、人との繋がりや新たな経験を得られるという意味でも、私たちにとってはちょうどいい気がしている。

 

そんな私たちの仕事づくりの経験の中でも、特に長期にわたる大きな挑戦となったのが、「セルフビルド薪カフェ作り」というプロジェクトであった。

 

 

そもそも、私は自伐型林業(小さい作業道を入れて、長期的に少しずつ間伐を繰り返し山を育てていく、小規模で環境保全型と言われている林業)を担当する地域おこし協力隊として村にやってきたのだが、当時から私は産業としての林業にはあまり興味が無く、「人間の暮らしと山をいかに繋ぎなおせるか」ということに強い関心があった。

 

林業という形にとらわれずに、山の資源を活かした小さな仕事を作ることから始めたい。やがてそれが時間をかけて少しずつ森づくりにも繋がっていくような形を目指したい。協力隊としての活動を通し、山と関わる日々の中で、その想いが強くなっていった。

 

そしてたどり着いたのが、こんなプランだったのである。

 

独学で在来工法を学び、自分たちでカフェを建ててみよう。材料は地域の木材や古材を使い、身近に出る間伐材や剪定木を薪として、調理や暖房に使おう。日常に、樹や森を感じられるカフェがいい。村内外の人が出会い交わり、文化が育まれるコミュニティカフェのような場になればおもしろい。

 

 

当初の計画では小さな小屋を建てるイメージだったが、設計を考えているうちに段々と建築面積は大きくなり、最終的にはまったくの素人が20坪のカフェを完全にセルフビルドすることになっていった。協力隊の活動として、建築作業に取り組ませてもらえることになったのはとても有り難いことだった。

 

 

敷地内にたくさん残っていた木の根をユンボで抜いて整地するところから始まり、設計、基礎工事、木材の刻み、棟上げ、屋根葺き、煙突工事、外装、内装、電気配線工事など、ほぼすべての工程をプロには頼まず、自分たちだけで行った。床材には、自分で山から伐り出してきたヒノキを使った。なにもかもが初めての経験で、ひとつひとつの工程を勉強しながら地道に作業を進めた。

 

 

建築作業は基本的には楽しいものであった。「俺ってモノを作るのが好きなんだな~」とこんなにも実感したのは、子どもの頃に工作に熱中していた時以来だった。

 

しかしながら、なにしろ長期戦なので楽しさよりもしんどさが上回るときも多々あった。そんな時、どれだけしんどくても自分で決めて始めたことだから、投げ出すこともできないし、誰かのせいにすることもできない。そのことがまた、しんどさに追い打ちをかけてくる。時には、思うようにいかずに、悔し涙を流した日もあった。

 

 

正直、全体を通して作業自体はそこまで難しい技術は必要なかったように思うが、完成までいかにモチベーションを維持していくかが一番の難関だった。

 

そうして約2年の建築期間を経て、2020年秋に「マキビトcafe」として無事にオープンさせることができた。マキビトという名前には、火のある暮らしとしての「薪火と」、山に関わり暮らす人としての「薪人」、自然と一体となり旅をする「牧人」、文化の種を蒔く「蒔き人」、など私たちが大切にしていきたい想いを込めた。

 

 

すべて自分で作ったので、完成したカフェのどの部分を見ても、その作業をしていた時の気持ちが蘇ってくる。これもまたセルフビルドの醍醐味のひとつなのだろう。

 

暮らしも仕事も未来の社会も、自分たちが望むようにデザインしていける。

 

これから発信していきたいそんなメッセージを体現するような建物を、まずは作ることができた。これから、自分たちらしく、無理のないペースで地域内外の皆さまに愛される場に育てていけたらと思う。

 

さて、現在は建築作業も落ち着いてしばらく経ち、宿とカフェの営業をしながらの生活リズムにも慣れてきたところである。カフェを建てている最中は、「もう二度とこんなことはやらんぞ!」と思っていたはずなのに、完成して間もなく「次は何を建てちゃおっかなぁ~」などと思っている自分がいることに気づき、驚いた。

 

実はこれから自宅の増改築工事を基礎から、またセルフビルドで進めていこうと計画している。これもきっとおもしろいプロジェクトになると思う。完成までに時間は必要だが、ぼちぼちとやっていくつもりだ。

 

多くの田舎暮らしに興味がある人にとって、心掛りなのは「仕事をどうするのか?」というところだろう。実際には、地域にはさまざまな仕事がある。ニーズはあるものの顕在化していない仕事も多い。私たちのように、小さく自営を始めるのにも、都会に比べると随分ハードルが低く挑戦しやすい。

 

ひとつひとつは小さな仕事であっても、いくつかの仕事を組み合わせることで、自由度の高い豊かな暮らしを立てていけると感じている。まさに、私たちは今そうして暮らしており、なかなかに幸せだ。私たち夫婦を快く受け入れてくださり、この場所を使わせてくださっている大家さんをはじめ、地域の方々にはいつも感謝している。

 

こんな暮らしに興味がある人も、そうでない人でも、ぜひうちの宿やカフェを気軽に利用してもらえたらと思う。

 

Ono Masaharu
小野正晴

神奈川県鎌倉市出身。早稲田大学社会科学部卒。「オノ暮らし」主宰。パーマカルチャーデザイナー。出版社勤務後、3年間の世界一周ハネムーンを経て、2017年より下北山村で暮らし、小さな宿・カフェを開業。

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