僕は奈良県の北のほうにある生駒市に住んでいる。今、中学2年生だ。
僕が初めて下北山村を知ったのは、小学5年生の時の冬だったと思う。ある森で開かれていたイベントで、下北山村に住む北さんやムーミンさんにお会いしたのだ。
右が北さんで、左がムーミンさん。2年前の写真。
北さんたちがやっていたのは、薪割りのプログラムだった。
斧で薪を割った感触と、僕が薪を割るのを見て、お二人が反応してくれるのが楽しくて、ずっと薪割りをしていた。下北山村のことも教えてくれて、北さんやムーミンさんは「下北山村に来たらいいやん」って言ってくれた。すごく楽しそうだなあって思って、行きたいなあと思った。
その「行きたいなあ」が実現したのが、小学6年生の夏休み。1人で、イベントの時に知り合ったカメラマンさんの車に乗せていってもらった。
村に着いてからは、北さんと鮎釣りをしたり、カブトムシのトラップを仕掛けたり、ムーミンさんの家に泊まらせていただいたり、薪割りのイベントのお手伝いをしたり、とても楽しい時間を過ごした。
2泊3日だったが、とても短く感じた。また来年も行きたいなあと思ったが、2020年はコロナウイルスの影響で、行くことができなくなった。
そして今年の夏、2年ぶりに下北山村に行けることになったのである。
僕が住む生駒市からは、同じ県とは言えどかなり遠いし、車でしか行けない。でも僕の両親は車を運転しないので、今回も下北山村によく行く知り合いの方に乗せていただいた。下北山村へ行くまではなかなか時間がかかるが、車窓から景色を見るのが楽しかった。
下北山村へ入ると、まずゲストハウスへ向かったのだが、その宿の方が、前回訪ねた時に一緒にバーベキューをした方で、一緒に昆虫の話もした方だった。
その方のおうちではかわいい赤ちゃんが生まれていた。
川遊びをして、次に「コワーキングスペースBIYORI」の前でキャッチボールをしていたら北さんに会った。僕が「バットとボール貸してくれませんか?」って言うと、「あっ、じゃあ取ってくるわあ」って言って軽トラに乗って取りに行ってくれた。
村の方によると、北さんはこういう人らしい。
北さんは元高校球児で、とても野球が上手だ。北さんも入って、他の大人も入って、6人くらいで野球をした。僕の投げたボールは完璧に捉えられたけど、とっても楽しかった。打つときのアドバイスとかもしてくれたり、ボールを受けてくれたりして、うれしかった。
前回来た時もこんなふうにして遊んだのだが、子どもと一緒に遊んでくれて、でも大人のすごさを見せてくれるのが素敵だなあと思った。
そうしていると、役場の方が来て、さっき捕ってきたという鮎を分けてくださった。貴重な鮎だけど、こちらの人数分、袋に詰めてくださった。前回もこうやって鮎をくださった方がいたのを思い出した。
僕たちは村民でもないのに、こうやって分けてくれるのがうれしいし、素敵だと思うけど、やっぱり不思議だ。僕からすると、自分の食べる分が少なくなるのは嫌だと思ってしまうし、お隣に住んでいる方、とかじゃなくてただの旅行客なのに、あげるのはできないと思う。
僕がケチなのかもしれないけど、そういう人もいると思う。村の人たちで物をおすそ分けしあったりする物々交換のようなことや、車に相乗りすることもあるという。
その人は、僕たちが鮎をもらって喜んでいるところを見て喜んでいるようにも見えるし、なんだか角がなくて、まぁるくて、優しくて素敵な村だなあって思った。
下北山村に来るとつい時間を忘れてしまう。
腕時計を持っていてもただの腕輪をつけているかのように使わなくなってしまうことがある。「今何時だろう?」って調べようと思ったらチャイムが流れてくる。あんまり音質は良くないけど、メロディーが懐かしいチャイムだ。節目の時間に鳴るのだろうか。
時間を忘れて遊んで寝て、朝起きて、遊んでという生活が何日でもできそうなぐらい楽しいが、次の日も楽しかった。
この日はムーミンさんたちとバーベキューみたいなのをして遊んだ。
ムーミンさんというのは村に住む人だ。前回、お家に泊めていただいたムーミンさんだ。「ムーミン」ってみんなが呼ぶから、僕はまだ本名を知らない。ムーミンさんが村に引っ越してきたのは数年前なのに、もうすっかり村の人らしい。
このムーミンさんもとても面白い人だ。デザイナーのお仕事をされている。誰とでも話せるような人で本当に壁がない。僕が初めて村に行った時も下の名前呼びでどんどん話しかけてくれた。一緒にイベントをやった時もすごく楽しかった。
2年前の写真。これも思い出の一枚。
下北山村の人たちとおしゃべりをしていると、どんどん会話が弾んでいく。話していて僕はすごく楽しかった。聞いてもらえるからだけじゃなくて、一緒に盛り上がれるからだと思う。
今、僕は親に反抗期だって言われる。このこともムーミンさんに話したら、「あんまり喧嘩したらあかんで」って言ってくれて、「でも腹が立ったら、いつでも下北山村においで」って言ってくれた。
いつでも、ってわけにはいかないけれどそう言ってくれたことがとてもうれしくて、やっぱり下北山村には優しい人がいっぱいいるなあって、僕は改めて実感したのだった。
(All photo by yuta togo)
- 荻巣 樹
- Ogisu Itsuki