どこにいたって、日々の暮らしを楽しもう。

執筆者
山岡伸子
山岡伸子
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好きなモノやコトはたくさんある。

 

植物が好き。

空を見上げるのが好き。

海が好き。

なにかしら作るのが好き。

音楽が好き。

読書が好き。

 

幼い頃に好きだったモノやコトは、大人になってもそんなに変わっていないように思う。

それらを形づくったのは間違いなくこの場所での暮らし。

 

緑の山々や透き通る川の流れ、水面に景色を映すダム湖、抜けるような青空に白い雲。

少し足をのばせば(車で40分ほど)、微妙な色合いに変化する海。

 

 

ここでは、それらが「ある」のが普通で、季節や天気、時間によっても、さまざまな色や風景を見せてくれる。

 

自然の色ってこんなに繊細で不思議で綺麗なんだと改めて感動し、雑草と呼ばれる草の小さな花の可愛らしさに気づき、苔についた水滴の美しさに心惹かれ…

 

そんな日々を、「贅沢だなぁ、幸せだなぁ」と思う。

それがここでの日常なのである。

 

 

下北山村出身。Uターンで村に戻り、今年で4年目。地元出身者ではあるけれど、今はまだ半分は地元民、半分は移住者、そんな気持ちで過ごしている。

 

はたから見れば地元民なのかもしれないけれど、「すっかり地元の人」の気分になれるのかどうかは時間の問題なのだろうか…まだよく分からない。

 

中学生までを下北山村で過ごし、最寄りの高校がある海沿いの町・三重県熊野市で祖母宅に下宿しながら、毎日海を眺める高校生活を送った。京都市内の短大に進学し、就職してから大阪で10年ほど、戻る直前までは東京都内に長らく…18年ほど住んでいた。

 

結婚したり、転職・転勤で東京を離れてゆく友人を見つつ…「わたしにはここから離れる理由も、離れない理由も、どちらもないなぁ」と思いながら過ごしていた日常が、数年前に少し変わった。

 

そのきっかけは、体調を崩して手術・入院したこと。「 もし、あと3年くらいしか生きられないとしたら、どうやって暮らしたい?」 と、結構本気で自問自答した。そして自分でも驚くほど悩まずに、ぽんっと出てきたのが「自然の豊かな場所で、植物や土に触れて暮らしたい」だった。

 

えっ、あぁ…そうだったんだ。そうなのか…。

 

まぁ、実際にはそんな深刻な状況にはならなかったので、「身近で自然の豊かな場所は地元だよな…でも、今戻っても仕事ないだろうし。戻るとしても定年してからかなぁ」とか、たまーにぼんやりと考えるくらいの変わらない日々を過ごしていると、ある日「奈良・下北山むらコトアカデミー」なるものが都内で開催されると知った。

 

ゆくゆく戻るかもしれないなら、今の地元のことを知っておくのもいいかもしれない。

 

そんな軽い気持ちで受講することにしたにも関わらず、3ヶ月後には 「今戻ってもどうにかなりそうな気がする」と思い始めてUターンを決意し、半年後には下北山村に戻ってきたのである。

 

大阪から東京に引っ越した時も後から思えば無謀だったのだけれど(無職のまま引っ越したので…)、Uターンしたのも、今にして思えば、無謀に見えたのかもしれない(「田舎に引きこもるなんて…なにがあったの?」と心配してくれる人もいた)。

 

でも、「動けるとき」がそのタイミングなんだと常々思っている。心配や不安で動けないときは、動くべきでない時だし、動いてもうまくいかない。そんなものだと思っている。

 

自分でも、田舎に戻って自営業になるなんてまったくの想定外だったし、不安もある。「大丈夫なのかな?」と思うときも多々ある。けれど、今のところはどうにかなっているのである。本当にありがたいことに。

 

 

村内にあるコワーキングスペース「SHIMOKITAYAMA BIYORI」のレンタルオフィスを借りて事務所を構えている。春にはデッキでお花見ランチをするのがお気に入り。30年近くペーパードライバーで、できれば運転はしたくなかったけれど、車がないと生活がしづらい。今では、自分の車に愛着もあり、運転はうまくはないけれど嫌いじゃない。

 

 

…と、書いていて、ふと思い出したことがある。

 

「田舎に引きこもってできる仕事っていいよな」

「そのためには有名になって、人が来てくれるようにならなきゃダメか。それは難しいなぁ」

 

そんなことを思っていた。10代だったか20代の頃だったか…忘れてしまうくらい昔である。

 

時は流れ…。今では、パソコンとインターネットがあればどこでも仕事ができたりするご時世。対面しないとできない仕事というのもあるけれど、オンラインでできることも増えてきている。ある意味、思っていたような仕事をしているのかもしれない…。

 

 

「自分の好きなモノやコトは都会にある」とそう思っていたし、確かに都会でないと楽しめないモノやコトも多い。ただ、ここには「ない」モノも多いけれど、「ある」モノも多い。どんな風に捉えるかはその人次第。住めば都。日々の暮らしを楽しむ。そんな気持ちは、どこに住んでも変わっていなかったのかもしれない。

 

今はそう思う。

 

 

Photo by Kensuke Akashi , Yuta Togo

Yamaoka Nobuko
山岡伸子

京都芸術短大ランドスケープデザインコース卒。大阪・東京で造園設計・デザイン・商品企画等の仕事を経て、「奈良・下北山むらコトアカデミー」受講をきっかけに出身地である下北山村にUターン。2018年よりコワーキングスペースBIYORI内のレンタルオフィスに事務所を構え、日々の暮らしを楽しみつつ、デザイン・ものづくりをしている。

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