東京ドーム1個分の裏山を買って始めた休日林業と、山主になって思うこと。

執筆者
北 直紀
北 直紀
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僕たちが暮らす下北山村。
その面積の92%が森林だ。広さにして12,000ヘクタール。

 

ヘクタールって?

 

書きながら、そんな声が聞こえてくる気がする。
テレビなどでよく面積の規模を「東京ドーム○個分」と表しているのを見かけるが、東京ドームは4.6ヘクタールだ。

 

2019年、僕は山を買った。公簿面積で5ヘクタール。つまり東京ドーム1個ちょい。公簿面積とは、国の法務局に登記されている面積だから、実際はもう少し大きいかもしれない。

 

え? 国に登録されている面積と違うの?

 

書きながら、そんな声がまた聞こえてくる。
違います。この世間での非常識も森林・林業界では常識、という難しい話をしたいわけじゃないので、この話はここで終わり。

 

そう、僕は山を買った。

最近はキャンプブームなどで山を買う人が増えているらしい。

 

僕が買った山は、僕の家の裏山だ。ドラえもんの学校の裏山じゃないけど、なんだかこの「裏山」という言葉がいいなと思う。

 

僕がなぜ山を買ったのか。一番の理由は、「やってみたかったから」だ。林業を自分の手でやってみたかった。きこりをやってみかった。木を伐れるようになりたかった。それだけかもしれない。

 

ヘクタール10万円で買った。全部で50万円。妻には30万円と言ってある。

 

50万円で東京ドーム1個ちょい。僕は変わり者でもないので、林業をやって元は取りたいと思っている(もちろん作業は休日に)。

 

でも欲張りなので、実は違うことも考えている。

 

2020年12月、本格的に休日林業を始めた。小さなユンボ(パワーショベル)を借りて、山に「道」をつけ始めたのだ。

 

 

最初の瞬間を思い出してみる。

 

ユンボに乗り、バケット(先端のショベル部)を地面に挿す。ググっとユンボに体重を乗せて、ガサっと地面にバケットが入ると、同時にウワッとユンボの機体が持ち上がる。すると機体は少し傾き自分の体が後ろに振られる。

 

こけたらどうしよう。

 

ドキドキしながらやっていると、「ほんまにできるんかな?」と思ってくる。掘り進めてはたたき慣らし、掘り進めてはたたき慣らす。専門用語では「ほぐして転圧」する。

 

下手くそながらも少しずつ進めていくと、立木が行く手に立ちはだかる。ユンボを降りて、チェーンソーで伐倒作業に移る。

 

チェンソーを水平にして、木を倒す方向に「受け口」を入れる。

 

その後に、倒す後ろ方向からチェーンソーを入れる。このとき、「受け口」と追っていくチェーンソーの間に「ツル」を残すことが大事だ。「ツル」がちょうど「蝶つがい」の役割を果たして、想定通りの伐倒を可能にしてくれる。

 

「ツル」を残さずに切ると自分の方に倒れてくることもある。「ツル」を残し過ぎると木が裂け上がり危険な状況になる。

 

ドキドキ…ドキドキ…。

 

心臓の音が聞こえる気がする。「大丈夫かな…」という気持ちになる。嫌になる。なんでこんなことやってんねやろ。不安になってくる。ほんまにできねやろか。

 

それでも、何回かやっていると、そのドキドキも和らいでくる。

でもまだドキドキする。基本的に自分は臆病なんだなと思う。

 

うまくいかないことが多いが、一番は怪我をしないことを目標にやっている。

幸いめちゃくちゃ危ないことにはなっていないが、いつも安全に最大限配慮している。

危険センサーが働くと疲れる。でも最近、その疲労が心地よくもある。

 

山に道をつけるとき、何もないところに道をイメージする。

振り返ると道ができている。

 

“地上には多くの道がある。けれど、最後の一歩は自分ひとりで歩かなければならない”
—ヘルマン・ヘッセ

 

哲学を語りたいわけではないが、よく思い出す。

 

いろんなことを決断し、選択をする。みんなの意見も聞くが、最後はひとりで決めることが大事だと思う。どんなこともそうだ。「あの人たちが言っているから」とか、「こんな研究結果が出ているから」とかが理由ではなく、自分で決める。自分でやることが大事だと思う。

 

少し話が長くなってしまったが、この半年で木を50本くらい伐り、道を100メートルくらい、ドキドキしながらつけた。倒した木はトラックを借りて、村の製材所に出荷した。ちょっとだけ自信もついた。

 

最後に。

道を歩くのはひとりだ。

 

 

でもみんなも自分の道を歩いている。

歩いている道はたまに交差することがあっていい。

僕には仲間がいる。林業研修で出会った人たちだ。

たまには僕の山でみんなが集まれればいいなと思っている。

 

この山はみんなが来れる山にしたい。素人が山で活動をしたいと思っても、できる環境は中々ない。
そういう人たちが自分と同じように「ドキドキ」する場所があっていいように思う。

 

だから僕の山は僕の山だけれども、みんなの山になればいいなと思う。

それぞれが歩く道の交差点になれたらと思う。

 

Kita Naoki
北 直紀

下北山村役場職員。1983年、下北山村生まれ。同志社大学経済学部卒。幼少期から中学卒業まで、雄大な自然の中で育つ。高校・大学に通うために奈良市内で下宿。中学校の教職員を経て2010年にUターン。下北山村の人々が、試行錯誤しながら取り組んでいることを伝えていけたらと思っている。

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