「FEDECA」×「skywood」。2つの企業が奇跡のように出会い生まれた「杉杢ナイフ」の物語

執筆者
浅郷 剛志
浅郷 剛志
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みなさんにとって、仕事が楽しいと思える瞬間とはどんなときでしょうか?

 

いろんな価値観があると思いますが、お客様や仕事仲間から感謝された、仕事で何かを成し遂げたなど、自分が会社や組織、社会に貢献できたと実感できたときに感じるという人も多いのではないでしょうか?

 

そしてその貢献が自分一人の力だけでなく、多くの人の力を持ち寄って成し得たことであれば、さらに喜びは大きくなるものです。喜びや幸せは、人との関わりの中から生まれるということを強く実感します。

 

今年、奇跡のような出会いから、みんなの力を持ち寄ってあるナイフが生まれました。

 

村で製材業を営む「スカイウッド株式会社」の本田さんご夫婦や、下北山村役場の上平俊さん、そしてご縁を繋いでいただいた皆様との出会いと「杉杢(すぎもく)ナイフ」誕生までの軌跡を、お話しさせていただきたいと思います。

 

 

すべての人の刃物体験を応援する

 

私は、兵庫県三木市で大工道具を製造する老舗の工具刃物メーカー「神沢鉄工株式会社」が手掛ける刃物ブランド「FEDECA」のマネージャーをしている浅郷(あさごう)です。

 

 

三木市は400年以上も昔、豊臣秀吉の時代から大工道具を中心とした金物の町として発展し、今でも大工道具をつくる鍛冶屋さんや、私たちのようなメーカーがあちこちに点在しているような街です。

 

 

建築工法の変化による大工道具の使い手の減少、新興国との価格競争など、国内の金物製造を取り巻く環境は厳しさを増しています。そんな中、より多くの人に刃物の魅力を届けるために何をすべきか? 日本の刃物文化を新しいかたちに昇華するにはどうしたらよいか? そうした問いをもとに立ち上げたのが「FEDECA」です。

 

 

誰もが一度は、「職人さんみたいに木を削れたら気持ちよさそう」「お母さんみたいに包丁を扱えるようになりたいな」というように、「刃物を思うように扱えるようになりたい!」と思ったことがあるのではないでしょうか。

 

しかし、刃物を扱うこと自体が面倒だったり、手先が不器用だったり、刃物は恐いものという先入観があったり…様々な理由で、刃物は多くの人の日常から遠ざかってしまっています。そしてつくり手も、安全・快適・便利を求める多くのお客様の要望に基づき、暮らしの中で刃物を使わずに済むような製品をリリースしてきました。

 

この傾向は刃物に限ったことではありません。世の中全体を見てみても、多くの人々が安全・快適・便利といった物質的に豊かな暮らしを手にすることはできましたが、一方で、「生きがい」や「やりがい」といった心の豊かさ、生きていてよかったと実感できる機会は減少しているように思います。

 

「生きがい」や「やりがい」は、たとえば、「歌いたい」「踊りたい」「描きたい」「創造したい」といった、心の奥底にある衝動を表現することで得られるものです。

 

だとすると、「刃物を思うように扱えるようになりたい!」という気持ちも同じで、多くの人の心の底に眠っているその衝動を呼び起こし、刃物を通じた自己表現を全力でサポートして多くの人の「生きがい」や「やりがい」につなげていくことこそが、これからの刃物のつくり手のあるべき姿ではないか。そういう結論に至りました。

 

そうして私たち「FEDECA」は、「刃物で遊ぶ文化をつくる」をビジョンに掲げ、アウトドアやクラフトといった趣味・遊びの中で「使ってみたいと思う、ワクワクするような刃物」の開発や、イベントでのワークショップ・刃物体験を積極的に行い、「いつでも刃研ぎ無料」といったアフターフォローも充実させることで、「すべての人の刃物体験を応援する」取り組みを行ってきました。

 

 

下北山村との奇跡のような出会い

 

そんな私たちが下北山村を知ったのは、知人から届いた一通のメッセージがきっかけでした。

 

「FEDECA」のナイフを使ったワークショップが下北山村で行われているよ!

 

そのメッセージに添えられた一枚の写真には、NHK の「にっぽんの里山」という番組内で子どもたちが「FEDECA」の「安全ナイフ」を使用して木を削っている様子が写っていました。

 

 

「お子様のファーストナイフとして使ってもらいたい」をコンセプトに、お子様が使っても親がヒヤヒヤしなくて済むように取外し可能な安全ガードが付いたナイフ。木を削ることを通じてものづくりの楽しさを感じていただきたい! そんな思いでつくったのですが、なかなか思うように売れていなかった製品でした。

 

安全ナイフをワークショップで使ってくださっている方がいる! どんな人が、どんな風に、どんな思いで使ってくださっているのだろう? 直接お話を聞きたい!

 

いてもたってもいられず、すぐにインスタグラムで情報提供を求めました。

 

SNSは本当に便利ですね。その日のうちに村で地域おこし協力隊として活動されている奥田さんから連絡をいただき、村の方にお声がけいただくことになりました。ちなみに、奥田さんの弟さんが私たちの製品を愛用してくださっていて、たまたま投稿をご覧いただき、村に在住のお姉さんにお声掛けくださったそうです。

 

奥田さんは役場の上平さんに相談してくださり、上平さんがさらに探してくださった結果、放送で映っていた安全ナイフはスカイウッドの本田さんのお子さんの物であることがわかりました。ご連絡先を伺い、すぐに本田さんへ感謝の気持ちをメールしました。それに対してすぐに本田美紀子さんからご返信いただいたのが、こちらの文章。感動してしまったので、そのまま転載します。

 

 

神沢鉄工株式会社
FEDECAブランドマネージャー 浅郷 剛志様

 

はじめまして。この度はご連絡を頂き、ありがとうございます!そして弊社のホームページやFBをご覧いただき、ありがとうございます。

 

2019.8.13(FB)に、村役場の林業係の方と、地域おこし協力隊の方と弊社で「山の学校」というイベントを開催した時、協力隊の方が、枝を使った色鉛筆づくりをイベントの中でしてくださいました。

 

その時に用意されていたナイフが子供には使いにくそうだったので、息子たちの使っている安全ナイフをお貸ししたという経緯がございます。番組内でナイフが映っている時間は一瞬だったかと思いますが、浅郷様に情報が届くということは、神沢鉄工さんが皆様に愛されている証ですね!

 

じつは私も神沢鉄工さんの大ファンでしたので、浅郷様からのご連絡、うれしすぎて感激・感動しております。初めてのやり取りにもかかわらず大変申し訳ないのですが少し、お話聞いて頂いてもよろしいでしょうか?

 

うちの母は、子供には刃物を器用に使えるようになってほしいという人だったため、私は小学校に行くころから、高学年になるまで鉛筆を刃物で削っておりました。勉強を始める時、終わる時、鉛筆を削っていました(今考えると、気持ちや調子を整えられたのは、静かに自分と向き合う、鉛筆削りの時間があったからだったように思います)。

 

そして、自分の子供たちにも同じような経験をしてほしいと思い、神沢さんの「自分で作るナイフキット」を購入して、当時小3と年長の息子と作ってみました。すると、上手に怪我無く、するするとあっという間にできあがりました。それから、今でも、なんでもかんでも削って楽しんでいます。二人ともめちゃくちゃ器用になり、いろんなものを作ったり、魚もさばける子供に育ちました。

 

うちの主人は、木工業・製材業を営んでおりますが、私の将来の夢は「SKY(しもきたやま)こどもクラブ」を作って、野外活動を通じて自然や森を感じる活動をしたいと思っております。その中で、神沢さんの安全ナイフを一人一本持ち、お箸、スプーン、フォーク、お皿、コップを作り、野外で使ってみたいと思っているんです。

 

ナイフ一つで広がる世界の素晴らしさをみんなに知ってもらいたくて、そして、これからの人生を豊かなものに、と願っているのです。しかし、ナイフで怪我をしないためには、見守りの人数を増やすなど細心の注意が必要で、ナイフを使うことを諦めざるをえないのが現状です。でも、神沢さんの安全ナイフを知った時、私の夢は叶うかもしれないと思い、うれしくて泣いてしまった記憶が浅郷様のご連絡により、ひさびさに蘇ってきました。

 

「SKYこどもクラブ」の開会式に、子供たちの分のナイフを安全ナイフキットでつくる。そのナイフでえんぴつを削ってもらい、預かり保管する。その他、ナイフを使ってたくさんものづくりし、閉会式の時に、預かっていたえんぴつの削っていない側を削り、どれだけ上手に刃物を使えるようになったのかを比べて、子供たちや保護者の皆さんと喜びを分かち合ってみたいと妄想しております。

 

神沢さんの「お子様にも刃物に親しんでもらいたいと思い開発した商品」というコンセプトや思い、ちゃんと受け取っています! そして、神沢さんの商品を通じて、息子たちは心豊かに、素敵な人生を送らせてもらっております! 本当にありがとうございます。

 

ご連絡ありがとうございました! 初めてのやり取りで長文失礼しました。私の夢がかなった時、またご報告させていただきますね。本当にありがとうございました!

 

神沢さんの思い、沢山の子供たちに届きますように!

 

スカイウッド 本田美紀子

 

こんな熱いメッセージに心を打たれ、「とにかくお会いしたい!」という一心で、すぐにスカイウッドさんのもとへ伺うことにしました。

 

 

杉杢ナイフをふるさと納税の返礼品に

 

初めての下北山村。木を愛する本田さんご夫婦。その製材所を見学させていただき、もともと流木作家だった昭彦さんの、「自然のままを利用して形にする」という感性に感動しました。

 

 

スカイウッドさんの「カッティングボード」は、木目の自然な流れに沿って木材をカットするため、それぞれが個性的な形をしています。木は木目や色合い、質感が一本一本異なり、樹種によって香りも違います。私はこんなに生き生きとした、木の個性を見事に表現したカッティングボードを見たことがありませんでした。

 

 

そして製材所ではスギやヒノキをはじめ、ケヤキやサクラなど幅広い樹種が取り扱われ、初めて見るような珍しい木もたくさんありました。中でも一番感動したのが、杉の杢(もく)の部分。力強く神々しささえ感じる、複雑に入り組んだ独特の模様。

 

 

なぜこうなるのかは定かではないのですが、一説によると杉の木が傷をついたときに自己修復する過程でできたふくらみが杢になるようです。まさに厳しい環境を生き抜いた証なんですね。今では原木市でも評価が高まり価格が上がっているそうですが、先駆けて杢に価値を見出した本田さんの木への尊敬の念に、深く感銘を受けました。

 

そして、村の製材所を復興し、地元の木に付加価値をつけて流通させることで村の林業を活性化しようとする熱い思いにも触れたことから、下北山村やスカイウッドさんの取り組みのお力になることはできないだろうか、という思いが強くなっていきました。

 

そうした中で、スカイウッドさんが村の「ふるさと納税」に力を入れているというお話を伺いました。過疎などにより税収が減少している地域と、都市部との地域間格差を是正することを目的としてつくられた「ふるさと納税」。人口減少が著しい下北山村において、自分たちの努力で直接的に税収を上げることができるこの手段は、まさに希望の光といえるでしょう。

 

あの杉杢でナイフをつくって、ふるさと納税の返礼品としてご活用いただければ、みんなに喜んでいただける。メーカーとして、こんなに幸せなことはありません。

 

そうと決めたら話は早く、「木材の仕上げはこうした方がいい!」「せっかくなら村の材を使ったカッティングボードとセットで提案できれば、皆さんに喜んでいただけるのでは」「 かっこいい素敵なロゴも入れたらいいね」など、次々とみんなからアイデアが湧いてきました。こうしてみんなの力を持ち寄ってできたのが「杉杢ナイフ」です。

 

 

 

村の未来の力になりたい

 

手前味噌ですが、この杉杢ナイフ、魅力的だと思いませんか?  杢の模様から、木が持つ生命力みたいなものが感じられ、神々しさすら感じます。

 

 

このナイフを手に取っていただいた方が下北山村を訪問してくださって、さらには下北山スポーツ公園のキャンプ場でキャンプして、杉杢ナイフで料理をつくっていただいたらもう最高です。私たちのナイフを通じて、山と共に生きる下北山村に興味を持ってくれる人が少しでも増えてほしい。その魅力を届けたい。

 

今回、下北山村との出会いから、杉杢ナイフが完成するまでのストーリーの一つ一つが奇跡の連続で、お互いができることを持ち寄って、村に貢献したいという思いをもって、協力してつくり上げたプロセスは本当に楽しく、幸せなひと時でした。

 

 

みんなでつくったナイフを通じ、たくさんの人に村を知っていただき、村の皆様がつつがなくこれからも幸せに暮らしていける未来のために少しでも力になれれば、私たちもうれしいです。

 

美紀子さんの夢である「SKYこどもクラブ」の開会式の折には、私たちも本田さんご夫婦のワークショップのお手伝いができれば、これ以上の幸せはありません。その日がくることを、今から心待ちにしています。

 

Asago Takeshi
浅郷 剛志

1981年、埼玉県さいたま市出身。投資会社勤務後、木工家具製作の修行を経て2013年に兵庫県三木市の老舗工具刃物メーカー「神沢鉄工株式会社」へ入社。2015年、新規事業として開始した刃物ブランド「FEDECA」のブランドマネージャーに就任。以来、「刃物で遊ぶ文化をつくる」をビジョンに掲げ、「刃物を思うように扱いたい」と願うすべての人の刃物体験を応援するため、ワークショップや製品開発を行っている。休日は家族と自然豊かな場所でバンライフを楽しんでいる。

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