下北山に住んでつれづれに思うこと(ネギのこと多め)。

執筆者
山本典子
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今年も9月になってしまった。

 

9月は忙しい。野菜の種蒔きが集中するタイミングだからだ。8月の末から9月初旬にかけて、白菜、大根、玉ねぎ。中旬を過ぎると菜っ葉類……。

 

特に難しいのは、ここ下北山村の特産物である「はるまな」の種蒔きだ。

 

 

お彼岸過ぎから10月の初旬頃が蒔き時と聞いていたので、これまで10月に入ってから蒔いたこともあるし、9月中旬に蒔いたこともあったが、うまくいったことはあまりない。昨年も一昨年も、虫にやられて植え替えができなかった。

 

そんなときに頼ってゆくのは、私が秘かに「師匠」と呼んでいる近所のお姐さん。

 

とにかく苗作り、作物作りが上手で、私から見ると失敗などしたことがないように見える。もちろん、姐さんの口から「今年は失敗だよ!うまく育たない!」という嘆きも聞いたことはある。それでも、私から見ると、私のよりうんと立派に育っている。うまく育った、育たなかったというのは、その人の経験や目標によって違ってくるものなんだなあ……と思ったものだ。

 

 

私がここのところ一番必死だったのは、玉ねぎの種蒔きのことで、昨日やっと蒔き終えた。

 

というのも、昨年のノートに、「9月5日に種蒔きした」と書いてあったので、何としても今週中に蒔きたいと思っていたからだ。それはなぜなら、昨年の苗はこの10年間で一番上手に発芽し、一番立派に育った(と私が思っていた)からだ。

 

ただ、ちょっと不安なのは、師匠が種蒔きをしたのか聞いていないことだ。今年の夏は暑さが半端ではなく、しかも長かった。今でも30度以上の気温が続いている。こんなときは、もう少し遅らせた方がよいのかどうか……? 聞いてからにすればよかったなー! でも、もう昨日蒔いてしまった。

 

ダメならもう少ししてから、もう一度蒔こう!

 

そう腹を決めた。過ぎたことをくよくよしても仕方ない。玉ねぎのことが片付いたら、次はネギのことに心が移ってゆく。

 

なぜか私はネギに憧れている。何度種を蒔いてもまともに発芽しないネギ。この10年の間で一度だけ、下仁田ネギが発芽し、育てたことがある。あまりに立派に育ったので、収穫するのがもったいなくて毎日眺めていたことを思い出す。

 

その後、何度も種を蒔いたが発芽せず、最近は種を買うこともなくなっていた。その代わり、ネギの特性を生かし、食べるときに根っこから3㎝くらいを切り落として再び植えておくと、3~4日で青芽を出して、すくすくと育ってゆく。そしてまた食べられるネギになってくれる。

 

種を買う代わりに、根っこのついているネギそのものを買い、3㎝くらいを切って植え付ける。そんなことを繰り返していると、夫に「ネギはうちにもあるじゃないか!」と責められてしまう。私は「いいの、植えるんだから!」と言い返して、買い続けている。

 

 

今年の春、東京の友人から「牛の角」という種類のネギの種をもらった。名前からして強そうで、きっと太く大きくなるネギだろうと思い、大喜びで早速種を蒔いた。発芽するまで毎日水をやり、朝に夕に見に行った。

 

3週間くらいかかったと思う。ポッポッポッと、小さなほやほやしたほそーい芽が出てきた。針のような細い先っぽに黒い種の殻を付けているものもあった。

 

ネギの発芽を見たのは実に7~8年ぶりだった。感動で胸が膨らみ、しばらく座り込んでその姿を眺めた後、友人に電話すると、彼女たちの農園でもすでに発芽し、そのほやほやの芽の間引きをしているとのことだった。

 

私は間引きするのが惜しくて、「もう少し大きくなったら、間引いた苗を植え替えよう」と考えた。そして日々、成長していく苗を見て満足していた。

 

ところがある朝、水やりに行くと、なんと何本もの苗が「ねっ切り虫」にやられていた。苗はまだ細くて、周りに密集して生えているので、大胆にねっ切り虫を探せない。それでも細い棒で突いて虫を探し、なんとか見つけ駆除に成功した。「このやろう! このやろう!」と、心の中で叫んでいた。

 

その日から、まだ小さいけれど大きい順に引き抜いて、苗を植え替えていった。毎日がねっ切り虫との戦いだった。茎が太くなってくるとねっ切り虫もかじらないらしく、どんどん育って、今では太いもので直径1センチくらいになっている。

 

ただ、今年の夏は暑さがひどく、毎日のように水やりをしたにもかかわらず、成長が悪く、葉も黄色くなってゆき、枯れそうなものもあった。8月後半から台風の影響で雨が降り続き、今ようやく葉が青々としてきた。これからどこまで太くなってゆくのか、楽しみでならない。

 

 

ここまで書いた通り、目下の私の関心事は「牛の角」の成長なのだが、ここ5~6年続いているもうひとつの関心事もやはりネギのことだ。6~7年前に、長野県鬼無里村というところに住む義兄の畑から櫓(やぐら)の付いている「やぐらネギ」を10本ほどもらってきた。

 

大事に植え付けて、ネットもかけて冬をやり過ごした。

 

一見枯れたようになっている葉の間から青芽が出てきて、春になるとすくすくと育ち始め、柔らかそうな、おいしそうなネギに育った。まだ細いし、10本中8本しか育たなかったので、このまま育てようと思い、土寄せをしたり手作りの肥料など与えたりして、楽しみにしていた。

 

そのうちにネギ坊主が出てきて、花のようなものが咲き始めると同時に、ネギ坊主の頭からニョキっと芽が出てきた。長野でその姿を見ていたので、驚くというより待ちわびていたのだが、実際、自分の畑でそれが育ち始めるのを見て、「やっぱり本当なんだぁ!」という思いでこのときも胸がいっぱいになった。

 

ネギ坊主から出た芽は次々と育ち、ぐるっとまあるく並んで、確かに櫓のような姿になった。

 

「そうか! この芽を植え付けて増やしてゆくんだな!?」と、素人の私でもすぐにわかった。ひとつのネギ坊主から、多ければ8本くらいの芽が出ていた。その年は8本の櫓から25本くらいの芽が取れて、植え付けた。

 

そうやって、「やぐらネギ」を毎年増やし続けてきた。

 

最近では、毎週開かれている土曜朝市にも、時々「やぐらネギ」を出荷している。根付きで出すので、「うーん、もったいないなー」などとも思うのだが、何のために増やしているのかといえば、やはり「立派な野菜を作って、毎週土曜日に開かれる村の朝市に出したい」からだと思う。

 

 

そうそう、朝市に出す前に、私はまず、おいしそうにできた野菜は都会に住む友人たちに送っている。そして、「すごーくおいしかった!!」と言われると、もううれしくて、「もっとがんばって、安全でおいしい野菜作りに励もう!」と張り切るのだ。

 

そんな私だが、この下北山村に移り住んで早10年になる。

 

もともとは群馬県の農家で生まれた。14歳のとき、父の仕事の関係で神奈川県の横浜に引っ越し、都会ぐらしになった。子どもの頃の14年に渡る畑との付き合いから、私の中には、畑づくりに憧れるものが育っていたのだと思う。

 

だから、この村に来て、畑と触れ合って、私の体が自然に畑になじんだのだろうと思う。作物を育て始めて、楽しさと同時に、生きるものを育てることの大変さに気づいた気がする。上手に立派に育てることができたとき、こんなに嬉しくて満足するのは、その大変さ、難しさゆえなのかもしれない。

 

 

もうひとつ、私が畑を通じて知ったことがある。それは、雑草との戦いであるということだ。

 

抜いても抜いても、雑草は生えてくる。しかも、同じものばかりではなく、いろいろな雑草が芽を出してくる。大きくはびこっているある雑草を退治すると、待ってましたとばかりに次の雑草が芽を出し、はびこり始める。

 

 

まるで私が、その草のために手を貸してあげてるように。でも、そんなことを考えながら雑草取りをしていると、なんだか物語が生まれてくるようで楽しくなってくる。無心で草取りしているようでいて、頭の中では、私と雑草たちとの会話が始まっているみたいだ。

 

 

子どもの頃から、畑の雑草取りは好きだった。今でも好きだ。あまりの雑草の多さ、大きさにうんざりはするが、それをひとつひとつ取り除いてゆくのが好きだ。近所の人に、「大変だな、えらいな!」と声をかけられるが、私はそれほどとも思っていない。ただ時々、私の作物がこの雑草みたいに強いといいのにな、と思うことはある。

 

そんな、畑での私の日々は外から見ると、まさに「余生」といった暮らし方なのだと思う。私の中にその自覚は全くないのだが。急ぐこともなく、落ち込むこともなく、ちょっとした悔しさや後悔、がっかり感、反省などを繰り返し、それよりも何倍もの喜び、楽しさ、満足感を得ている。

 

 

こんなふうにのんびりと生きている私たち夫婦を、この村は自然に受け入れてくれているみたいだ。

 

夫は、この村の歴史の深さに惹かれ、あれこれと書物を読み漁っている。私はその夫の話を聞いて、この村について少しづつ知ってゆく。年老いて畑に出られなくなったら、私もいろんな書物を読むようになるのかしら……などと思いながら。

 

Yamamoto Noriko
山本典子

群馬県出身。14年にわたり、父の農業に触れながら子供時代を過ごす。横浜、東京での生活を経て、夫の定年を機に下北山に移住。再び畑に親しむ中で、植物たちを眺める喜びに満ち、心豊かな日々を過ごしている。東京で図書館に勤務し、13年間児童サービスに携わった経験を活かし、下北山村で周囲の人たちに協力してもらいながら「ぼこぽん図書館」を開設(現在の運営母体は「NPO 法人サポートきなり」)。たくさんのボランティアの方々と楽しく運営している。

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